第28回日本臨床スポーツ医学会学術集会

第28回日本臨床スポーツ医学会学術集会(2017年11月@東京)にて、以下の4演題を発表します。

 

演題名:地方におけるスポーツ内科診療の現状と課題

演者:大久保病院/京都九条病院 スポーツ内科 田中祐貴
抄録本文:
スポーツ貧血をはじめとするスポーツ内科疾患は緩徐な発症で慢性的な経過をたどることが多く、気付かれにくい。またアスリート、指導者の間でもスポーツ内科疾患はまだ十分に認知、理解されているとは言い難い。以上の理由から、アスリートは少々の内科的な不調があっても練習を休んでスポーツ内科外来を受診するということは難しい。

そこで私は、もともと夜診を設けていて、スポーツ整形外科に力を入れている医療機関でスポーツ内科外来を展開していくこととした。平日夜に、総合的なアスリート診療(スポーツ内科・スポーツ整形外科など)を提供できる医療機関であれば、中高生を中心とした若年アスリートが受診しやすいからである。

残念ながら地方においてスポーツ内科を専門とする医師の数、また医療機関におけるスポーツ内科外来の数は十分とは言えない。アスリートが望めばどの地域のどんな競技のどんなレベルであってもスポーツ内科診療にアクセス出来る環境が整うことを望む。

 

 

演題名:スポーツ貧血と診断された患者の症状についての検討

演者:大久保病院/京都九条病院 スポーツ内科 田中祐貴
抄録本文:
【目的】スポーツ貧血と診断された患者の症状について傾向を知るため。【対象】当院スポーツ内科外来を2016年6月から2017年5月末までに受診し、スポーツ貧血と診断された患者(運動誘発性喘息など他のスポーツ内科疾患を合併していた者を除く)。【方法】スポーツ貧血の代表的な症状として『息切れ』『動悸』『倦怠感・易疲労性』『記録の伸び悩み』『記録の伸び悩み以外に自覚するパフォーマンスの低下』が挙げられる。スポーツ貧血と診断された患者の問診票・カルテから上記症状について集計した(複数回答可)。【結果】期間中にスポーツ貧血と診断された患者は65名、年代別では中学生が45名(69.2%)と最多競技別では陸上長距離が54名(83.1%)と最多だった。最も多かった症状は『息切れ』38名(58.5%)であり、『動悸』23名(35.4%)、『記録の伸び悩み以外のパフォーマンス低下』も22名(33.8%)、『記録の伸び悩み』21名(32.3%)と続いた。全くの『無症状』も5名(7.7%)いた。【考察】『息切れ』『動悸』という基本的な貧血症状のみならず、『パフォーマンスの低下』を自覚するスポーツ貧血患者が相当数いることがわかった。アスリートに明らかな身体症状がなくても『パフォーマンスの低下』を自覚していればスポーツ貧血をはじめとするスポーツ内科疾患の検索を行う意義は十分あると考えられた。

 

 

演題名:H.pylori除菌により鉄剤内服不要となったスポーツ貧血の1例

演者:大久保病院/京都九条病院 スポーツ内科 田中祐貴
抄録本文:
【症例】14歳男性、中学生バスケットボール選手。息切れを主訴に当院スポーツ内科外来を受診。血液検査ではHb:10.6g/dl、フェリチン7.3ng/mlと低値でスポーツ貧血と診断。クエン酸第一鉄ナトリウム100mg/day内服開始したが、2ヶ月後もHb:10.8g/dl、フェリン:11.5ng/mlとあまり改善しなかった。鉄剤の反応が悪かったこと、H.pylori感染の家族歴があったことから上部消化管内視鏡検査を施行すると萎縮性胃炎を認め、迅速ウレアーゼ試験でH.pylori陽性を認めた。除菌治療としてアモキシシリン水和物、クラリスロマイシン、ランソプラゾールを内服し、2ヶ月後に尿素呼気試験にて除菌成功を確認した。H.pylori除菌後はHb:14.2g/dl、フェリチン:44.3ng/mlまで改善し、さらに鉄剤を漸減、中止しても維持された。【考察】スポーツ貧血の本態は『鉄欠乏』である。本症例では、鉄剤の反応が悪いスポーツ貧血に対し、ピロリ菌を除菌することで鉄剤が不要となった。鉄剤の反応が悪かったり、H.pylori感染の家族歴があったりする場合には、H.pylori感染がスポーツ貧血の主因である可能性があり、若年でも上部消化管内視鏡検査を検討する価値がある考えられる。

 

 

演題名:気管支喘息を合併したオーバートレーニング症候群の1例

演者:大久保病院/京都九条病院 スポーツ内科 田中祐貴
抄録本文:
【症例】20歳男性、大学生陸上長距離選手。約1年前から練習量が増えた。感冒を契機に、陸上競技でのパフォーマンス低下(息切れ症状や持久力低下)と倦怠感、易疲労性、脱力感、意欲低下、不眠などの症状を認め近医内科を受診。肺機能検査で1秒率の低下(68%)を認め、気管支喘息と診断、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物吸入とエピナスチン内服で治療開始された。喘息への治療開始後1週間は若干症状が改善したように思われたが、その後症状は悪化し続けたため、当院スポーツ内科外来を受診。肺機能検査では1秒率は88%まで改善し運動負荷後も1秒量の低下は認めず、喘息のコントロールは良好だった。病歴や症状・諸検査から総合的に判断し、気管支喘息を合併したオーバートレーニング症候群と診断。喘息への治療は継続しつつ、完全休養を指示した。最終的に6ヵ月かけて完全に競技復帰を果たした。【考察】オーバートレーニング症候群の診断には、他の内科疾患の除外が必須である。本症例では、気管支喘息に対し適切な治療がなされ良好なコントロールが得られているにも関わらず、症状は悪化した。喘息やスポーツ貧血などの内科疾患が良好にコントロールされているにも関わらずパフォーマンスの低下や倦怠感などの症状を認める場合、オーバートレーニング症候群の可能性を念頭に置く必要がある。