第27回日本臨床スポーツ医学会学術集会

第27回日本臨床スポーツ医学会学術集会(2016年11月@千葉)にて、以下の3演題を発表しました。

 

 

演題名:女子プロサッカー選手におけるスポーツ貧血の有病率についての調査

演者:大久保病院 スポーツ内科 田中祐貴
抄録本文:

【目的】スポーツ貧血は、アスリートのパフォーマンスを低下させることが知られている。しかしプロスポーツチームにおけるスポーツ貧血の有病率についての報告はこれまでほとんどなかった。今回、女子プロサッカーチーム所属選手におけるスポーツ貧血の有病率を明らかにするために調査を行った。【方法】女子プロサッカーチーム所属選手全員(25名)に対して、選手の自覚症状の調査を行った後、血液検査(ヘモグロビン・鉄・フェリチンなど)を行い、スポーツ貧血の有病率を調査した。【結果】選手25名中、スポーツ貧血を4名(16%)に、IDNAiron depletion without anemia)を5名(20%)に認めた。スポーツ貧血を認めた4名に、自覚症状は認めなかった。

【考察】女子プロサッカー選手においても16%にスポーツ貧血を認め、従来の報告とほぼ同様の結果であった。無症状でもスポーツ貧血を認め、知らず知らずのうちにパフォーマンスを落としている実態が明らかになった。トップアスリートは高い心肺機能のため、スポーツ貧血があっても症状がマスクされてしまうことが一因と考えられた。定期的なスポーツ内科的メディカルチェックを行うことの重要性を改めて認識させられた。また様々な競技・年代・レベル・性別で同様の調査を繰り返し、スポーツ貧血の統一された診断基準・治療目標の設定が望まれる。

 

 

演題名:ストレスと瞬発的な運動が誘因と考えられた発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(PKC)の一例

演者:大久保病院 スポーツ内科 田中祐貴

抄録本文:

【症例】17歳男性、高校野球部キャプテン。高2秋のキャプテン就任直後から、短距離ダッシュの際、走り始めて数メートルで四肢や頸部が伸展位をとり硬直し転倒するという発作を繰り返すようになった。長距離走のように瞬発性を求められない走り方をしたり、体育の授業において他競技でダッシュしたりする際には発作は見られなかった。神経学的所見を含め身体所見に異常はなく、血液検査でも何ら異常を認めなかった。頭部MRIでも器質的な異常を認めず、脳波でも明らかな異常は指摘できなかった。診断的治療も兼ね、カルバマゼピン内服(200mg/day)を開始すると内服4日目から発作は消失した。『PKCの臨床診断基準』から、PKCとの診断に至った。より確実な効果を狙い、カルバマゼピンは300mg/dayに増量した。野球部引退後はカルバマゼピン内服を中止し経過をみているが、日常生活・体育の授業などで発作を認めることはない。【考察】PKCの病態についてはてんかん活動など指摘されているがいまだ解明されていない。本症例は、てんかんの素因がある中、キャプテンというストレスが重なり、瞬発的な運動が誘因となって不随意運動発作を繰り返したと考えられた。アスリートに不随意運動発作を認めた場合、PKCを念頭に診療すべきである。若干の文献的考察を加え報告する。

 

 

演題名:オーバートレーニング症候群とうつ病の合併に対し抗うつ薬内服が有効であった1例

演者:大久保病院 スポーツ内科 田中祐貴

抄録本文:

【症例】21歳男性、大学生サッカー選手。年齢別で日本代表経験もあり、人一倍練習熱心であった。倦怠感、易疲労性、不眠、意欲低下、嘔気、寝汗などの症状やパフォーマンスの低下を認め、徐々に悪化したため近医内科・精神科を受診。内科では特に異常なく、精神科ではうつ病と診断され『運動の中止』を指示された。2ヵ月経過しても症状の改善なく、当院スポーツ内科外来を受診。臨床経過や症状・諸検査から総合的に判断し、オーバートレーニング症候群と診断。うつ病の診断基準も満たしており、うつ病も合併していた。『運動の中止』の指示だけで競技復帰までの先行きが見えない不安・焦燥感が病態を悪化させていたため、塩酸セルトラリン25mg/day内服を開始。当院フォロー開始3ヵ月で症状が消失したため、内服を中止とし、段階的に競技復帰を指示。最終的に6ヵ月かけて完全に競技復帰を果たし、以後再発なく経過している。【考察】オーバートレーニング症候群とは、長期間のオーバートレーニングによって生じた慢性難治性疲労症候群である。明確な診断基準はなく、臨床経過や症状から総合的に診断する。本例は数ヵ月単位の十分な休養と抗うつ薬内服で軽快し競技復帰を果たした。オーバートレーニング症候群とうつ病の合併症例に対しては積極的に抗うつ薬を使用することで競技復帰までの期間を短縮出来る可能性が示唆された。同様の症例の蓄積が待たれる。