【無月経と疲労骨折】

女性には通常、月経があります。成長の過程で、体にエネルギーが十分貯まり、体脂肪がある程度身につくと、脂肪細胞からレプチンの分泌が増加します。レプチンは脳の視床下部を刺激し、最終的には卵巣からエストロゲンが分泌され、月経が起こります。

 

エネルギー不足になると、体脂肪が減少し、レプチンの分泌が低下します。するとエストロゲンの分泌が低下し、月経もなくなります。3ヵ月以上月経がない状態を無月経と呼びます。

 

エストロゲンは、骨の代謝において骨吸収を抑える、つまり骨密度を保つ働きがあります。エストロゲンの分泌が低下すると、骨密度を保てなくなり、骨がもろくなります。これが骨粗鬆症で、疲労骨折のリスクが上がります。

以上をまとめると、下図のようになります。

 

エネルギー不足』『無月経』『骨粗鬆症女性アスリートの3主徴であり、世界の女性アスリートにとっての最重要課題となっています。

 

無月経はエネルギー不足を表す重要なサインです。エネルギーのバランスは、摂取(食事)と消費(トレーニング)で決まるため、消費に見合ったエネルギーをしっかり摂取しなければなりません。診察では、血液検査結果や現在までの身長・体重の記録から、十分なエネルギーを摂取出来ているか確認します。また骨密度を保つのに十分な量のエストロゲンが分泌されているかも血液検査でわかります。

 

治療としては、第一に食事療法(十分なエネルギー摂取)ですが、女性ホルモンを補い骨を守る目的で塗り薬や内服薬(低用量ピル)を使用することもあります。

 

日本では低用量ピル内服は敬遠されがちですが、海外では多くの女性アスリートが無月経のみならず月経困難症』『月経前症候群の治療や月経の人工的移動を目的に低用量ピルを内服し、月経とうまく付き合いながらパフォーマンス向上につなげています。

【実際の症例】

≪無月経と繰り返す疲労骨折を主訴に受診した女子体操選手≫

19歳大学生、女性、体操選手。 無月経と、3度の疲労骨折を主訴に受診。 持参いただいた食事記録(7日間)を見ると、消費エネルギーに見合ったエネルギー摂取が出来ていないことがわかった。体重増加を恐れて糖質(主食)の摂取を意識的に減らすなど、栄養摂取に問題があった。

女性ホルモン不足が続き、十分な骨の強さが得られていない中で、高い強度の練習を続けた結果、疲労骨折を繰り返しているものと考えられた。他のスポーツ内科疾患を鑑別するため、血液検査など行ったところ、スポーツ貧血を認めた。無月経の場合、エネルギー摂取が不足すると同時に鉄の摂取が不足することも多く、スポーツ貧血を合併することが多い。 

治療としては、無月経に対し疲労骨折の予防を目的として経皮吸収女性ホルモン製剤塗布を、スポーツ貧血に対して鉄剤内服を、またスポーツ栄養指導(十分なカロリーと鉄の摂取について)を行った。食が細い方であったが、補食を取り入れて摂取エネルギーの確保に努めた。

治療開始後、疲労骨折はない。またスポーツ貧血も改善し、現在も体操競技を続けている。