【スポーツ貧血】

 ヘモグロビンは赤血球の中にあり、全身に酸素を運ぶ働きがあります酸素は鉄にくっついて運ばれるので鉄はとても重要です。

ヘモグロビンが減少することを貧血と言い、運動・スポーツが原因で生じる貧血をスポーツ貧血と呼びます。スポーツ貧血になると、全身の筋肉へ運ばれる酸素が減りパフォーマンスの低下(持久力・筋力などの低下)を引き起こします。また、息切れや疲れやすさ等の症状を認めたり、記録が伸び悩んだりします。

 

スポーツ貧血の主な原因は、鉄欠乏です。アスリートでは、鉄の摂取が不足したり、成長や筋肉の肥大に鉄がたくさん必要となったり、汗から鉄を失ったり、月経で血を失ったり、様々な原因が重なって鉄欠乏となります。

 

スポーツ貧血は、血液検査でヘモグロビン(Hb)、鉄(Fe)、フェリチン(貯蔵鉄)等を測定し診断します。スポーツ貧血になる時は鉄よりも先にフェリチンがなくなり始めるため、フェリチンは早期に鉄欠乏を発見出来る便利な指標です。

高い運動負荷がかかるアスリートでは、一般人の鉄欠乏性貧血の診断基準では不足と考えられます。アスリートの血液検査結果は、アスリート特有の解釈の仕方が必要です。

 

治療としては、第一に食事療法です。レバー、ほうれん草、ひじき等、鉄を多く含む食品や、鉄利用を高めてくれるビタミンCを多く含む食品を意識して摂取しましょう。

鉄剤やビタミンC製剤も内服し、貧血の改善を図ります。

 

※鉄は過剰になると、余分な鉄が心臓や肝臓、神経などに沈着して臓器障害を起こすことがあります。鉄過剰の目安はフェリチン:250ng/ml以上(男)、150ng/ml以上(女)ですので、3ヶ月に1回は血液検査を行い、適切な範囲にフェリチンがコントロールされているか確認し、鉄剤の量を調整する必要があります。

【実際の症例】

≪息切れと記録の伸び悩みを主訴に受診した陸上長距離選手≫

17歳、男性、陸上長距離選手。中学から陸上を始め、長距離を専門にしてきた。高校進学後も陸上を続け、自己記録を次々と更新し、一目置かれる存在だった。しかし、高校2年の8月頃から後半での息切れが目立ち、従来の走りが出来ないでいた。本人はスランプだと思い込み、さらに練習に打ち込んだが、記録は伸び悩んだ。監督の勧めで、10月にスポーツ内科外来を受診。問診、身体診察、血液検査、肺機能検査などから、スポーツ貧血ヘモグロビン:11.8g/dl、フェリチン:12ng/ml)との診断に至った。

治療として、鉄剤・ビタミンC製剤の内服スポーツ栄養指導(十分な鉄とカロリーの摂取について)を行った。後半の息切れは徐々になくなり、12月の記録会で半年ぶりに3000mの自己記録を更新した。以降、3ヵ月に1度のスポーツ内科外来受診を継続し、鉄剤・ビタミンC製剤の量を適宜減量しながら経過を診ている。


【アスリートの鉄剤注射についてコメント】

 2018年12月に「スポーツ貧血と鉄剤(内服・注射)」についての報道がありました。以下にスポーツ内科医 田中祐貴の考えを述べます。

 スポーツ貧血と診断し、鉄剤内服を開始した場合には少なくとも3カ月に1回は血液検査を行い、Hbやフェリチン値などの結果を見ながら鉄剤の量を適正に調整する必要があります。

 鉄は過剰になると毒性を持つため、十分注意する必要があります。鉄過剰の目安としては、男性でフェリチン250ng/ml以上、女性でフェリチン150ng/ml以上とされています。来年から全日本レベルの諸大会で血液検査結果の提出を義務付けるとの報道もありますが、フェリチンのカットオフ値をどこに設定するかというのは非常に悩ましいところです。指針を作成する先生方の判断を待ちたいと思います。欲を言えば指針を作成する側に入りたいですが。カットオフ値が男性250ng/ml、女性150ng/mlで良いかというと甘すぎると思います。トップレベルの選手は鉄需要・鉄消費が多く、食事で鉄を意識して摂っていてもそこまで高値になることは、経験上まずありません。おそらく男女ともフェリチン100ng/mlをカットオフ値にして、100ng/mlを超える選手については鉄剤注射をしていないか詳細に聞き取りを行うというくらいが現実的と思います。フェリチン値がカットオフ値を超え高値を示したとしても、鉄剤注射をしているか否かの判断をすることは非常に困難です。鉄剤内服を最大量で継続していたり、慢性炎症のため鉄の利用障害が起こったりしてもフェリチン値は上昇します。となると、果たして「血液検査結果の提出」にどれだけの意味があるのか、という話になってきます。

 鉄過剰にもかかわらず漫然と鉄剤内服を継続していると、過剰な鉄が心臓や肝臓、神経、関節などに沈着し障害を起こすこと、糖尿病の発症リスクを上げることなどが報告されています。鉄の経静脈的投与は鉄過剰となるリスクが非常に高く、原則として行いません。嘔気の副作用で鉄剤内服が出来ない場合や、症状の程度が重篤で経口よりも早く確実な鉄補充が必要とされる場合などには、鉄欠乏量を計算した上で計画的な経静脈的投与を行うことが稀にあります。ちなみに私はこれまで約1000人のアスリートを診てきましたが、鉄剤注射を実施したことは一度もありません。(2018年1月6日記載)